時は平安―。あらゆる魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこしていた時代 ―。
 当代一の陰陽師と噂される安部晴明の後継と目される陰陽師がいた。今はまだまだ半人前の彼は、名を安部昌浩という、晴明の孫である。
 彼は、書き写すために借りてきた大切な巻物を落とさないよう両手に抱え、飄々と隣を歩く白い物の怪を横目で睨んだ。
「もっくん、何で手伝ってくれないのさ」
 大きな猫ほどの体躯を持つ物の怪は、夕焼け色の瞳を細めて言い返した。
「俺、四足歩行」
「あれ、そうだっけ」
「そうそう」
 雑談をしながらそう長くはない自宅の廊下を歩く。じきに昌浩の部屋の戸が見えてきて、彼は苦労しながらもどうにか開ける。
 そして昌浩は大切に抱えてきた巻物を、床へ落とすことになる。
「あーあ。おーこられるぞ、晴明の孫」
 いつもならその直後に来るはずの衝撃と罵声が来ない。肩すかしを食らった気分になって隣の昌浩を見上げると、反応がないのも道理で、固まっている。
 それもそのはず、昌浩の自室であるその部屋には、いろいろ複雑な事情で安部家に半永久的に居候している左大臣の一の姫、藤原彰子がいたのである。それも泣きなが ら、だ。
「あ、あ、彰子!?」
 彼の驚きようも半端ではない。
「彰子、大丈夫?。えっと、どこか痛い?。あ、それとも俺何かした?」
 身振り手振り表情で、心配と申し訳のなさと動転を表し、謝り倒す。
「違うの、昌浩。心配しないで。家が恋しくなって、…昌浩いるかなって思ったら、 帰ってきてくれた」
 昌浩ははっとなった。たとえ信頼している大陰陽師の家だからって、昌浩よりひとつ下の少女が親元を離れひとり、勝手のわからないところへいるのだ。しかも今まで 何不自由なく暮らしてきただろう貴族の姫が。彼女が暮らしの不自由を訴えることは ないが、少しでも早く馴染もうと必死だったはずだ。自分が守ると言い切っておい て、こんなに簡単な彼女の心中を察する事さえ出来なかった。
「昌浩、心配しないで。帰りたいわけじゃないの。ちょっと寂しかっただけよ。…ほら、こんなに長く離れたのははじめてだから…」
 広大な敷地を持つ彼女の実家でも、毎日会うことは難しかったはずだ。けれど同じ 屋敷の中に居た。そのことを感じることは出来た。
 昌浩は慌てて言った。いつも明るく気丈に笑う彼女の、泣き顔など見たくはなかった。
「じゃあ、会いに行こうよ。俺だってたまーに仕事で会えるんだから、彰子が会えないわけないよ」
「うん…。そうね」
 …でもそれは難しい。わかっている、わかっているけど。
 どうか、一人で泣かないで。
 まだまだ頼りないけど、俺がいるから。


 私が六合好きなので、なんとか登場させたかったんですが、下書きで登場させたと
ころ最後の方遊んじゃってとてもじゃないけど載せられないものができあがってし
まったので、やめました。リクエストに忠実に。キャラを増やすと大変大変。
 ありがち?なシチュエーション&遅くなってすみません。やっぱり私の話には設定
からして無理があるようです。

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