月雲
 
 夜も更けた頃のリヴェンデル。薄暗い雲の切れ間から銀の月が覗いていた。風が雲 をそよがせ、月は動く雲に縁取られて様々に形を変えながら、頭上で光っている。
 闇の森の王子レゴラスは父の用事で裂け谷を訪れていた。
 故郷闇の森に対する闇の力の侵攻は以前よりずっと激しくなり、王である父の心痛 も、見ているこちらがいたたまれないものだった。
 ミドルアースの何処かでは力の指輪が見つかったと言うし、今回の書簡もそれに関 することなのだろう。
 かつての希望の名を持つドゥネダインの末裔は、本当に王家を継ぐ気は無いのだろ うか。ほんの少しだけれど一緒にいて、彼はこれまでのどの王よりも王らしいと思っ たのに。
 かの闇の王は序序に力を取り戻しつつある。
 レゴラスは最後の同盟の戦いより後に生まれたため冥王の姿を知らないが、戦いに 参加した者達から聞き知ってはいる。
 もう一度、始まるのだ。あの恐ろしい戦いが。
 死ぬべきではない者から死んでいく、憎しみと悲しみに彩られた戦争。
 この大地に炎が蘇るたび、緑が失われていく。暗い、昏い死の大地。人は何故気付 かないのだろう。民族や種族などどうでもいい。闇の恐ろしさに何故気づかない。二 度と緑芽吹かぬ大地になるまで、本当に気づかないのか。
 人間は、サウロンの力に対抗し得る最後の種族だというのに。
 レゴラスは軽く額をおさえた。
 エルロンド卿達は何を話し合っているのだろう。
 レゴラスには彼らの話はわからない。かれらに大前提としてある経験と知識がない からだ。それでも少しでも役に立ちたいと思って使者をかってでたのに、結局自分は 何の役にも立たなくて。此処で空を見上げる事しかできない。
 夜空からはもう雲は消えていて、後ろで葉のこすれる音がした。
「レゴラス」
 幼い頃から親しんだ声がする。
 驚き振り向くと、柔らかな微笑みを浮かべたエルロンドがいた。
「卿、会議は終わられたのですか?」
「ああ、先程な。それよりこんなところで何をしている?」
 エルロンドは邪魔な枝をくぐってレゴラスのいる中庭まで足を運んだ。
「邪魔になってはいけないと思って…」
「気持ちはわかるが、思い詰めて空回りしていては意味がないだろう。少し落ち着い て、周りをよく見るといい。誰もお前を邪魔になど思ってはしないし、遠くマーク ウッドから此処まで大切な書簡を運んできてくれた。十分、役に立っているよ」
 その言葉が邪魔になりたくないというレゴラスの言葉に応えたものなのか、役に立 ちたいという彼の思いに応えたものなのかわからなかったが(あるいはその両方かも しれないが)―。
  優しい背後の気配が嬉しくて、この世の終わりのように考えていた自分が恥ずかし く(もちろん楽観できるものでもなかったが)、彼は顔を上げることが出来なかっ た。
 そっと温かな感触が頭に触れて。
 レゴラスはそっと頭上の月に祈った。
 どうか。
 大切な大切なこの大地が、二度と暗闇に閉ざされぬよう。
 どんな闇のなかにも星の光を見いだせるよう。
 この大地の窮地に僕の力が少しでも、役に立てますように―、と。


 久しぶりに書いたせいか、とてつもなく短く感じられる…。それにしても私、短編 シリアスしか書けないもんで、どーも似たよーな話に…。私はいま原作読み返し中。かなりペースのろいですが。裂け谷ばっかなんでエルロンドの登場度が高い。
 私が知っているジャンルなら、ちょっと今書けそうな気が(今だけ!?)するの で、なんかあったらメールください。あんましいっぱいは無理ですが。      

novel

 

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